「機織りに費やす時間を教養のために…」男性社会の中で“哲学”を追求した女性の矜持 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「機織りに費やす時間を教養のために…」男性社会の中で“哲学”を追求した女性の矜持

天才の日常~クラテスとヒッパルキア<後篇>

「自由」を持っていた女性は珍しかった

 古代ギリシアでは市民としての「自由」があったのは奴隷ではない成人男性だけだった。それは、女性や奴隷たちが家事を担っていて、男性が広場で議論をしたり芸術や哲学などの教養を学んだりする時間を持てたからである。

 そういった意味では、夫と同じように哲学を行い、自由に活躍したヒッパルキアは当時の価値観からすると異質な女性であり、現代的な女性でもあったのだろう。 ヒッパルキアの生没年についての記録は残されていないため、彼女がいつどのように亡くなったかはわからない。クラテスは高齢まで生きたとされている。

 クラテスには何人かの弟子がいたが、その内の一人にストア派の開祖となるキティオンのゼノンがいる。ストア派の哲学はローマの文化や近代哲学に大きな影響を与えることとなった。クラテスもヒッパルキアも一般にあまり知られていないが、その生き方や思想は欧米文化の源流の一つとなっているのだ。

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大賀 祐樹

おおが ゆうき

1980年生まれ。博士(学術)。専門は思想史。

著書に『リチャード・ローティ 1931-2007 リベラル・アイロニストの思想』(藤原書店)、『希望の思想 プラグマティズム入門』 (筑摩選書) がある。


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